競輪選手の懐事情〜自転車部品高すぎ〜|DMM競輪

競輪選手の懐事情〜自転車部品高すぎ〜

コロナ禍の副産物、巣ごもり需要のお陰で、昨年の競輪の売上は1兆円を軽く突破!
それに伴い、選手の賞金も、この2年間でおよそ2割も上がりました。

いや〜好景気。右肩上がりの業界です!
自転車に乗ってるだけでお金が貰える! こりゃあ競輪選手もウハウハだよな〜!



なーんて、思っていた時期が私にもありました。

昨今、競輪選手の賞金が上昇していることをご存知のお客様は、同じように考えてる人も少なくないのではないでしょうか?


まぁ実際のところ、賞金が上がる前から競輪選手は高給取りの部類に入るお仕事です。

スーパーでシャウエッセンをノールックで買い物カゴに入れ、たまごや牛乳の値段の上下を気にせずに買える程度の懐の自由があるのは事実ですよ。

しかし、浮世離れした金持ちなのか? と言われると…?
正直、トップ選手を除く9割の競輪選手は地に足ついたレベルです(笑)。

イオンモールでは無双できるけど、百貨店でイキれない。
ぶっちゃけ、その程度の財政的地位なのです。


そんな絶妙な財政状況の競輪選手、賞金が上がって生活水準が上がったのか? と言われるとちょっと微妙なところ。

いい車に乗っていてSNSで自慢する選手はそれなりに多いですが、競輪選手という仕事において車は経費ですから。

金があり余っていい車を買うというよりは、節税にもなるので、せっかく買うなら! と、多少無理しても大きな損にならない、貴重な贅沢ポイントなのです(笑)。


今回は、そんな競輪選手の財政事情の、とーーーっても生々しく、かつ世知辛いお金のお話。
うちの業界の現状を愚痴を交えつつ語っていこうと思いますよ。



それでは、まずはこちらをご覧ください。



先日の落車でぶっ壊れた自転車です。

これ、なかなか面白い壊れ方なんです。



見てください、大ギヤとクランクがぐにゃあ…。

この部分がこんなふうに変形することって非常に稀なので、検車場にはギャラリーができていたそうですよ(笑)。





赤の✕がついているところが修復不可能部位です。写真では分かりにくいのですが、結構曲がっています。

接触で自転車の後ろ半分がグシャッと潰れてコケてしまった…という感じですね。

そりゃあ僕の体はえぐい勢いで地面に叩きつけられるわな。
しっかり鎖骨が折れました。


本当はグチャグチャに壊れた車輪も含めて写真に収めたかったのですが、破損具合の確認のためにすぐに検車員さんが分解してしまうのです。

すっごい派手な壊れ方だったのでお見せしたかったんですけどね(笑)。残念。



さて、チラッと修復不可能部位と書きましたが、この状態の自転車や部品は修復することができません。

フレームは当然廃棄。
部品類は、手元に予備パーツがあればいいのですが、常に揃っている訳でもなし。
基本的には新規に購入して自転車を組むことになります。


今回破損した部位は

・タイヤ(前後)
・リム(前後)
・スポーク(前後)
・クリップバンド(左右)
・ニギリ
・ハブ(後)
・ギヤ板
・クランク(右)
・フレーム(全損)

です。

次回レースを走るためには、その他にもレーサーパンツや手袋、ヘルメット等も買わないといけませんね。



開催が終わり、奈良競輪場に帰ってから選手会売店で必要な部品を買い揃えました。

新品の自転車部品…男心がくすぐられるぜ!



さて、ここからは今回の記事タイトル回収です。

競輪開催に持っていく自転車はもちろん選手が自腹で揃えなければいけないのですが、競輪開催中のレースや脚見せ、指定練習などで事故が起こり自転車が壊れた場合に関しては、自転車の破損部位に対して補償が出ます。

まぁ競輪開催参加ってのは雇用契約なので、ある意味では労災みたいなものですからね。
開催中に関しての物的損害や、怪我の治療費はある程度面倒を見てくれるのです。


Twitter(現X)の手応えを見る限りでは、ファンの皆様は結構自転車補償の存在を知ってる人が多いみたいです。
ほんとお詳しいファンの方、多いですよね(笑)。選手もビックリ。

そんなニッチなファンの皆様が気になるであろう、補償金額の明細を公開しちゃいますよん。



こんな感じ。

皆さん、どんな感想ですか?

実際、貰えるだけありがたい! って大前提は忘れてはいけません。
しかしながら、一度でも自転車に携わったことがある人、自転車部品の値段を知っている人がこの表を見ると

「え?これだけ?」

「どういう計算?」

という感想になると思います(笑)。


ここからは、自転車部品の価格を知らない人のための参考のため、そして、自転車補償と新品価格がどれだけ乖離しているかを理解していただくため、補償金額と新品価格の比較を書いていきますね。

全部書くのはしんどいので、高額商品をいくつかピックアップしてみます。

ちなみに新品価格はNJSパーツを多数取り扱っている某Tサイクルさんの通販サイトの税込価格を参考にしています。メーカー希望価格と違っていたらご容赦ください。

・タイヤ



補償表のタイヤ欄の後ろに書いている(A)(B)というのは、新品タイヤに張り替えた直後の場所はAタイヤ、一度でもレースで使用したタイヤはBタイヤと呼称する決まりなのです。

Aだと9,660円、Bだと6,760円の補償が出ていますね。

気になる新品価格は〜?


なんとコイツら、一本24,431円です。

ん〜!高い!

ただ実際んところ、競輪場で販売されるタイヤは何らかの補助金が効いているらしく、競輪選手向け実売価格は15,000円程度です。

競輪場で購入する際は15,000円ですが、競輪界を通さない場合(お店とかで注文した場合)24,431円って事らしいです。

いくら消耗品とはいえ、わざわざ「今回は新品交換ですよ」とAタイヤの項目を作っている癖に、9,660円しか出ないの、なぁぜなぁぜ?


・後ろハブ



ハブって部品、どこのパーツか分かりますか?

ホイールの回転軸部分って言えば伝わりますかね。冒頭に貼ったぶっ壊れたフレームの後輪部分についてる、黒い歯車みたいな部分です。

こちら、シマノのDURA-ACEがポピュラーなブランド。

一個6,660円の補償が出ていますが実売価格は…?


はいコチラ、販売価格は22,340円です。

うーん、半分にも満たない!

こういう回転部品は減価償却も考慮しないといけないので、実売価格に対して安くなるのは仕方ない感はあるのですが…。
まぁ言いたい事は後でまとめて書きます(笑)。

とりあえずもう2部品、新品価格との比較を見てください。


・大ギヤ



ギヤ=歯車ですね。

競輪界では、前のギヤを大ギヤ、後ろのギヤを小ギヤと呼びます。

ぼくは、スギノというメーカーの「禅-ZEN-」という、かっけえネーミングの大ギヤの51tを使っています。
ギヤの歯数の単位はtなのですが、なぜか競輪選手は、ギヤ歯数のことを51"枚"と言いがち。


見た目がカッコイイのは勿論なのですが、剛性や引っかかりが僕のフレームに合っている気がするので長く愛用していますよ。

ちなみに、大ギヤは複数のNJS登録があり、僕が使っている禅のほかにシマノ製のFC7710、スギノ製の144AAという大ギヤの中から選択できます。

基本的に自転車補償は当該部品の最も安い部品を参考に出るのですが…。
大ギヤの補償価格は2,990円

では新品価格は〜?


こちらなんと、禅の新品価格38,610円也。
参考までに、スギノ144AAは32,670円、シマノFC7710は13,580円です。

一番安いシマノの大ギヤでも、意外とお値段張ります。

2990円って数字はどっから来たんだ(笑)。


・クランク



最後にラスボス、クランクです。

クランクってのは、大ギヤがついている棒。
ペダルがついてクルクル回っているあそこの棒です。

今回は片方だけ破損してしまったので、一本5,800円の補償が出ていますね。

新品では左右セット売りしかしていませんが、こちらの新品価格は60,510円です。

んん〜? 補償5,800円〜?



さて、いくつかの高額商品について、補償価格と新品価格があまりにも乖離している事実を見ていただきました。

何度も書くのですが、自転車補償は貰えるだけありがたい!
あと、競輪選手は人並み外れて自転車を酷使するため減価償却が入るのは当然なので、新品が買える値段を出せ! というのもナンセンスであるのは承知の上です。

しかし、競輪選手が開催に呼ばれて参加して、レース内でのトラブルのせいで「仕事をしたのに貰う賞金以上の損が発生する=赤字で帰るハメになる」という構図は雇用契約上どー考えてもよくない!

それに、自転車補償ってシステムは、落車して自転車が壊れても身体が大丈夫だから次の日にはレースを走るぜ! という人のために、即日自転車を原状回復するための措置でもあるのです。


謙虚な心はいったん置いといて、「減価償却を考慮しても、誰がどう見てもこの値段じゃ自転車部品を購入できるるわけがない」と思わざるをえない価格設定は、システムの本来のコンセプトから外れているとしか言いようがないんですよね。

売上が落ちているならまだしも、今は売上が上がっていますから。尚更といったところです。

ぼくが競輪競走を走って自転車をぶっ壊す立場の選手である以上、そこは正当に主張してよい話であることは間違いないです。


その辺を踏まえた上で、ここまで異常に補償価格が乖離している理由ってわかりますか?

業界がケチってる…と言いたいところ(実際そういう要素もなきにしもあらず)なのですが、別で明確に理由があります。


それは、すげえ簡単な話なのですが

昨今の自転車関係部品の異常な価格高騰

にあります。

世間の物価高騰の波に、しっかり自転車業界も乗っているのです!


実は、先程貼った補償金額、実は2、30年前であればほぼ新品が購入できた金額に設定されているそうです。

数十年の時を経て、少しづつ部品価格は上昇。

僕がデビューした時には既に「部品高いのに補償こんだけしか貰えねーのかよ」と言う選手がいたので、業界はその時点で既に価格の変動に補償価格を合わせる気はないというスタンスだったのでしょうけど。

ただ、大きく状況が変わったのは主にここ数年です。
円安の煽りを受け、去年か一昨年あたりに急にほぼすべての自転車部品の価格が1.5倍になりました。

物価上昇は世間の値上げラッシュに準じているので、一般の方々にも想像がつくかと思います。


先程新品価格と補償価格の差を書きましたが、あそこに挙げた部品だけで既に差額10万円くらい損してますよね。

今回の僕の場合、これとは別にフレームも購入しないといけません。

フレームも、僕がデビューした当時は15万もあれば満足なフレームがオーダーできましたが、今では安くても20万円〜となっています。

自転車ってカッコイイ


更に!更に!

レースで着る衣類(プロテクターやレーサーパンツ)は補償すら出ません。

レーサーパンツ、実は15,000円くらいします。
シューズカバーは6,000円。手袋は8,000円くらい。

ほんと、すべてにおいて地味に値段が高い!

確定申告で経費で落とすにしても、一度お金は払わないといけないですからね。
結局のところ経費が全額返ってくる訳でもなし。


何度も書く!
貰えるだけありがたい! というのは大前提なのですが…。

せめて部品の値上げ率に対する補償金額の割増くらいしてくれないと、ちょっと変ですよ!
何とか! 何とか検討してくれませんかね! うちの業界〜!

偶然、物価高騰のタイミングで賞金が少し上がったのがホント救いですが、コレもし賞金が上昇していなかったらと思うと…。

ヒエ〜!



ってことで、お金にまつわる世知辛い愚痴をこぼしました。

まぁ愚痴と言っても、僕みたいなぺーぺー選手が愚痴をこぼしたところで改善されるほど甘い話ではないので、どっちかと言うとお客様に競輪選手の生々しいお金事情を紹介する目的の記事でした(笑)。

自転車補償のシステムを知っていた人も知らなかった人も、競輪選手も世間と同じく物価高騰に苦しめられている立場だと知ってもらって、少しでも身近に感じてもらえれば幸いですよ。


9月は斡旋が止まっているので、筆が進んで少し長い記事になりました(笑)。

お付き合いありがとうございました!

では、また次回〜!





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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。

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