ドーピングに揺れた競輪界



皆さん、お薬飲んでますか?
 
 
 


 
 
 
これは実家に置いてあった太田胃散です。
 
飲むと胃がスーッとしてスッキリしますよねぇ…。
 
でも僕、ここ何年も太田胃散は飲んでません。
 
実は、競輪選手は太田胃散を使っちゃいけないんですよ。
 
なぜ使えないかというと...という詳しい話は後で語りますが、今回は皆さんお察しの通りドーピング関係のお話の記事ですよ。
 
 
 
お客様的にはもうだいぶ旬が過ぎた話題…というと聞こえが悪いですが、今年に入ってから、選手の意識というものは変わりつつある気がします。
 
もちろん現在進行形でね。
 
まあいつもの通り、特定個人の話や業界の闇に切り込む!的な話ではありませんが、今回は改めて、ドーピング違反者が公表されてからの競輪界の雰囲気を語ってみようと思いますよ〜!
 
 
 
 
 
2025年は競輪界が色々と揺れた年だった気がします。
 
や、まだ半分くらいしか経ってませんけどね(笑)。
 
それでも、なんというか…色々とニュースが濃厚ですよね。
 
そんな中で、やはりドーピング違反者が複数出た事は皆さんの記憶にも新しく、なかなか衝撃的なニュースだったのではないかと思います。
 
こんな事をいっては何ですが、このニュースを聞いた現役競輪選手で「えっ! あの人が!? 嘘だろ!」と衝撃を受けた人はほとんど居ないと思います。
 
というのも、今までは競輪界の当事者である競輪選手(僕も含めて)ですら、競輪界で行われているドーピング検査の実態をほぼ把握しておらず、
 
「ホントに検査やってんの?」
 
「陽性が出ても発表しないんだから一緒だわ」
 
「正味強い奴はみんなやってるだろ」
 
という、下手するとお客様よりも酷い偏見が業界内で溢れかえっていたのです。
 
 
 
しかも、誰が「どこの病院で」ドーピングやったらしい、という詳細すぎる噂まで回ってきますからね。
 
あくまで噂ですし、鵜呑みにするようなものではないのですが…。
 
競輪選手の話って、作り話であっても、なんかいちいち解像度が高いんですよね(笑)。
 
以前、ドーピングに関する記事を書きました。
 
 
 
【ドーピングについて詳しく知ってる?】

 
 
 
過去記事を読まないと話がわからんという事はないですが、ドーピング検査における使用可能薬などの予備知識の話を書いているので、読んでない方は是非みてね!
 
この記事でもチラッと触れたのですが、ドーピング検査に引っかかって斡旋が止まる選手って、過去にもそれなりに存在していたのです。
 
もちろん、筋肉増強とかではなく「うっかりドーピング」だと信じていますが、真実は神のみぞ知る。
 
当然ながら発表は一切なく、斡旋停止を食らって終了。
 
正直、トップ選手でもなければ選手が3ヵ月仕事を休んでいて、しれっと復帰していても気付かないですよね(笑)。
 
というか、上位選手でもドーピング違反(うっかりの可能性あり)で斡旋が止まっていた選手が存在するのですが、競輪界ではあっせんをしない処置をはじめ、斡旋が止まる制裁が多数存在するため意外と皆さん気付かないものなのです。
 
よく、「JKAや選手会はドーピング検査の結果を隠蔽している」という陰謀論的な話をする方がファンの皆様はもちろん、選手の中にも根強くいらっしゃいます。
 
これ、客観的に見て「発表していない」だけで事実制裁自体は行われたはずなので、難しいところではあります。
 
競輪の制裁要項っていっぱいありますが、詳細理由の公表って昔から行われていませんから。
 
隠蔽というより、昔から「そんなもん」って訳です。
 
擁護する訳ではないですが、このネット全盛時代に隠蔽なんてすぐバレますし、リスクが高すぎますからね。
 
ただ、競輪界は今でもJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)による検査は行っていません。
 
本来、ドーピング検査を行ったのに結果を公表しないというのはおかしな話です。
 
まあJADA基準で言うと、うっかりであってもドーピング違反が認められると何年も競技資格が剥奪されますから。
 
「国家資格」である競輪選手にそれを適用してしまうと、民間団体が国家資格を剥奪することになりパワーバランスがおかしくなるのは事実です。
 
ただ、そういう側面を認識した上でJADA側は「それならスポーツとはいえない」と、競輪界には匙を投げている状態…って訳ですね。
 
つまり現在、競輪界で行われているドーピング検査は通常のスポーツの基準で言えば「自主検査」状態で当然、世間に発表する義務はありません。
 
隠蔽というより、「別に公式が発表する必要がない」状態が現在進行形で続いているのです。
 
その検査の実施件数も、昨年は70検体程度だそうです。
 
多い日には1日100レース近くが行われる競輪競走、年間約70検体=70件しか検査が行われていないとなると、「ほんとにやってんのか?」状態になってしまうのも仕方ないですよね。
 
実際、僕は選手生活10年が経ちましたが、検査を受けたこともなければ、検査をやっている開催に当たったことすらないですから。
 
業界人からも陰謀論的な話が出てしまうのは、現役選手から見ても「検査やっているらしいけど見たことがない」、「結局、システム的には隠蔽できない訳じゃない」という不透明すぎる状態が長らく続いていたという裏側もあっての事なのですよ。
 
世界のスポーツのキャッチコピーが泣いちゃうぜ。
 
 
 
まあなにせ、いままで業界での扱いが「そんなもん」だったからこそ、正直な話、競輪業界では「ドーピングやってる奴は普通にいる」的な感覚が蔓延してしまっていた訳です(あくまで肌感の話ですよ)。
 
 
 
 
 
そんな中で今回の騒動ですよ。
 
流石にトップ選手を含む斡旋停止騒動ですし、結構、大々的に公表されましたよね。
 
まあその辺の話はあまり深堀りすることはしませんが、現場の感覚で言うと「違反成分まで公表するのか!」というところに驚きました。
 
検査に引っかかっただけならうっかりドーピングの可能性もあるのでグレーで不透明な感じになりますが、成分まで公表したら言い訳ができませんもんね。
 
からの、公になった以上は対策を厳しくします! 制裁も厳しくします! ですから。
 
 
 
 
 
これらの理由があって、いままでの競輪選手のいわゆるうっかりドーピングに対する意識って、あまり高くなかったんですよね。
 
我々、競輪選手って、「プロスポーツ選手」というより、「個人事業主」として競輪選手をやっています。
 
所属している日本競輪選手会は、選手の労働組合みたいなもので、スポーツチームではありません。
 
つまり、競輪選手ってプロスポーツ選手でありながらも、スポーツ選手として管理される経験が少ないのです。
 
現場の感覚は「労働」。
 
上がいくら「スポーツ」を語っても、勝手に現場がそうなる訳じゃないですしね。
 
薬品の管理はあくまでモラルの問題、筋肉増強やパフォーマンス向上は論外だけど、そういう目的以外の日常的な医薬品接種は別に気にしなくていいだろう、というスタンスの人は少なくなかったのです。
 
というか、ぶっちゃけ違反成分が入った風邪薬を飲んでレースを走っても絶対強くなれませんし(笑)。
 
4年に1度の大勝負であるオリンピックの選手ならまだしも、毎週レースを走っている僕たち。
 
違反成分を摂取したとてパフォーマンスの誤差すら感じられないようなものだし、レース以外の日常パートでは薬くらい気にせず飲んでもいいだろう、という気持ちになるのは僕も分からなくはないのです。(僕は有難い事に企業のスポンサー様がついてくださっている事もあり、上に貼った記事の通りうっかりドーピングについては元々結構気にしていましたが)
 
期が新しい選手は競輪学校でドーピングについて講義を受けますが、古い選手はその経験すらもありませんからね。
 
 
 
ですが、やはり今回の騒動で業界の意識は一気に跳ね上がりました。
 
競輪場には急に「ドーピングはあなたの健康を脅かします!」みたいな啓発ポスターが貼られるようになりましたしね。
 
うーん、それに関してはなんかこう、ミーハーというか。
 
いまに始まったことじゃないのに、ニュースになった途端こういうのが貼られると「なんだかなぁ」と思ってしまうのは、オタクの悪癖でしょうか(笑)。
 
 
 
控え室での会話も
 
「このサプリって大丈夫なやつやんな?」
 
「認証マークついてるから大丈夫だよ〜」
 
みたいな、プロスポーツ選手みたいな会話が繰り広げられるようになってきたのです。
 
 
 
認証マークとは、然るべき機関で検査を受け、アンチドーピング団体に認証を受けたサプリメントだよ! という証のマークです。
 
 
 


 
 
 
下の緑色のマーク、インフォームドチョイスというのがその認証マークです。
 
認証マークにはいくつかの種類がありますが、日本ではこのマークがメジャーですかね。
 
国内の有名メーカーは基本的に認証マークがついていますが、海外サプリなどマークがついていないサプリにはドーピング検査に引っかかる可能性がある成分が含まれているかもしれないから使わないように、というものです。
 
今後は、競輪場売店でもそういう認証マークがついているサプリしか取り扱えなくなるそうですよ。
 
またネット上でも、市販薬の情報を入力すると使用可能薬かどうか、またドーピング成分が含まれているかどうかを検索できるサービスなんてものも広まりつつあります。
 
 
 
 
 
という事で、忘れた頃にやってくる! 冒頭の話題の回収に移ります。
 
 
 
実は、胃腸薬としてメジャーな「太田胃散」、ドーピング違反成分が含まれています。
 
すなわち、競輪選手は使えません。
 
太田胃散には、ヒゲナミンというファンキーなネーミングのドーピング禁止物質が入っているんです。
 
このヒゲナミンは、南天の実やチョウジなどの薬草などに含まれる成分で、β2作用薬という項目に引っかかります。
 
といっても、前述の通り太田胃散を飲んだからパフォーマンスが上がるのかというと、そんな事はありません(笑)。
 
ヒゲナミンの純粋な成分を多量に摂取した場合に興奮作用や筋量増加に繋がる(可能性がある)らしいです。
 
なんなら、用法用量を守って服用する範囲ではドーピング検査で成分が検出されることすらない…らしいですが、ダメなもんはダメってことです。
 
実は、このヒゲナミンが違反になったのは結構、最近の話です。
 
すなわち、少し前までは太田胃散を飲んでもよかったのに、ある年から急にダメになったんですよ。
 
そのため、違反成分が入っていると知らずに競輪場で飲んでいる選手、実際に見た事があります。
 
まあ当然のごとく、飲んだからめっちゃ強くなったのかというとそんな事は一切なく、その選手は新人に突っ張られて予選で散っていきました(笑)。
 
使用可能薬リストには胃腸薬が複数あるのですが、メンソール系というか...おなかでスーッとするタイプの薬があまり載っていないんですよね。
 
競輪をはじめとする無酸素運動系のスポーツで身体を限界まで追い込むと、最悪ゲロを吐いてしまうまでお腹が気持ち悪くなることがあるので、こういう胃腸薬は飲んでしまいがちです。
 
ほんと、注意しないといけませんねぇ。
 
 
 
まったく、スポーツ選手は大変だぜ…。
 
 
 
すっげえ厳密な話をすると、梅の実(梅干しのあれ)とかにも、ごくごく微量のドーピング違反成分が含まれていたりするらしいです。
 
それこそ別の意味で体調がおかしくなるんじゃね? というくらいに濃縮したエキスを過剰摂取して、やっと効果が出るか出ないかわからん程度の量です。
 
食品の中でも“素材”ですから流石に気にする必要はないと思うのですが、それでも「自己責任」である事には変わりないですから…。
 
個人事業主としての生活と、スポーツ選手としての責任のバランスを取る力が求められます。
 
そりゃもちろんプロとして厳しく妥協なく管理するのが当然ですが、なにせ競輪界ではJADAなどで行われている「日常の抜き打ちドーピング検査」がありませんから。
 
もはや、日常部分に関してはモラルの域になってしまうんです。
 
うーん難しい(笑)。
 
 
 
という事で、ここ最近は競輪選手のドーピング対策意識が急に高まってるよ〜というお話でした。
 
まあいつもいってるけど、ぼくはお酒を好きなように飲みたい(ドーピングやると肝臓にダメージがくるので基本的に大量に酒が飲めない)ので、絶対ドーピングはやりません(笑)。
 
検査体制が厳しくなるとはいえ、ドーピング検査件数も70件強だったのが100件程度になるだけらしいし…。
 
そもそもスポーツ選手がドーピングに手を染めるタイミングって、強くなりたくて限界を超えるためというより怪我から復帰する際に早く戻りたいから、というパターンが多いですし。
 
全員がそうとは限りませんが、その場合は復帰した頃には薬が抜けてる訳ですし。
 
うーん、根本的解決になるんですかねぇ。
 
ほんと、選手のモラル次第という話になってしまいますよね。
 
願わくば、業界には「いつ検査を行ったか」という部分と、個人名は伏せてもいいから結果くらいは開示してもらいたいものです。
 
スポーツ性やクリーンな部分を全面に押し出すなら、そのくらいしても普通だと思うんですけどねぇ。
 
 
 
ってな訳で、いつものごとく、競輪選手も大変なんですよ〜! という決まり文句で記事を締めますね(笑)。
 
では、また次回!
 
 
 

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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。

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