宿舎が個室の競輪場なんてあるんですか?
この前、玉野競輪に参加しました。
皆さん、玉野競輪場すげーんすよ。
玉野競輪場は、2020年に開催を休止し、2022年まで2年に及ぶ大規模改修が行われておりました。
改修により、検車場や客席がとても綺麗になりましたよ。
そして、競輪界では初となる試み、競輪場直結のホテル「KEIRIN HOTEL10」が爆誕したのはお客様の記憶に新しいかと思います。
ホテル外観。
文字通り競輪場直結です。
なんと、お部屋から競輪が見られます。
お部屋の内装もオシャレですっごいですね(語彙力のなさ)。
そして、驚くべきは公式HPに書いてあるこの説明。
「試合開催時は選手も宿泊する、ホンモノの”ロッカールーム”に宿泊」
なんと、お客様が競輪選手が使う宿舎に宿泊できると言うのです! なんて新しい試み!
HOTEL10の「10」には、9人の選手がバンクを走る競輪、その10人目の参加者は宿泊しているお客様だ! という意味があるそうです。
いやぁ、いわゆる「ライブ感」の境地ですね。
アレっ?
>開催時は選手も宿泊する
って事は、ワイらも宿舎としてこのホテルに泊まれんの?
なんて競輪選手が困惑するのも当然。
日頃、競輪開催中の競輪選手は外部と通信が可能な機器を全て奪われ、宿舎に缶詰にされる訳ですが。
選手宿舎って、基本的には同地区の複数人が一部屋に詰め込まれ(4人一部屋が基本)、むさ苦しい共同生活を余儀なくされるのが普通です。
※こちらの記事に、むさ苦しい宿舎で強く生きる競輪選手の様子と共に、HOTEL10ができる前の玉野競輪場宿舎の写真を載せていますのでよければご一読ください。
過去記事:「競輪選手はよく喋る」
それが! なんと!
玉野競輪では、この綺麗なホテルの!しかも個室が割り当てられるらしい!
流石にでき過ぎた話ですよ。
そんな美味い話があってええんか?
なんて思いながら実際に参加してみると、ホントにホテル10の客室が宿舎として割り当てられました。
もちろん一人一部屋。
選手には下層階が割り当てられ、上の階にはお客様が宿泊されているそうです。
語彙力があまりにも低いのですが、なんつーか…すげーな、玉野競輪…。
このお話、当然ながら2年前頃(玉野の改修が終わった頃)に選手間でめっちゃ話題になりました。
しかし、僕の元にはなかなか玉野競輪の斡旋が来ず、いまさら盛り上がっている次第です。
時代に乗り遅れた感しかないですねぇ…。
こちらは僕が泊まったシングルルーム。
こりゃ快適ですよ。
グッズもなんかいちいちオシャレですし。
いやぁ、すげーな玉野競輪…。
すげーな、HOTEL10…。
さて、そんな時代に乗り遅れた競輪選手こと田村風起くんの脳裏には、ある疑問が浮かびました。
参加選手全員が個室に入ったら、相互監視が成り立たず通信機器等の不正持ち込みが横行しないか?
イヤ、実際に持ち込む人はいませんし、やろうとする人もぶっちゃけいないと思います。
しかしながら、僕が考えつくような事はお客様の中にも思っておられる方がいらっしゃるのでは…?
と思い、わざわざ話題に出してみようかと思った次第です。
むさ苦しい4人部屋システムって、相互監視による不正防止の意味合いもありますからね。
正直、競輪開催はレース外の時間が暇すぎて、かつ娯楽が限られているので「電子書籍とか最新ゲーム機とか、YouTube見られる機器くらい持ち込めねーかな…」と思う瞬間ってどうしてもあります。
まあ、光の速さで話の腰を折るのですが、このようなタイプの宿舎の競輪開催では基本的に「持ち物検査」があるのでそのような不正は起こらないのです!
僕らが考えるような心配は、運営がしっかり対策をしています。
世の中、上手にできてますねぇ。
アレッ、まさかHOTEL10の話題は前置きですか?
これは今回も記事が長くなる予感…!
いや、ご心配は無用。
ぶっちゃけ持ち物検査については、あんまり書くことがありません。
だって、うちの業界の持ち物検査は、物理的に持ち物のすべてを引っくり返して検査するだけですもん。
人海戦術ってやつです。
ただ、マジでカバンの中身からポーチ、小物入れまですべてをひっくり返されるので片付けは大変。
一度、すべての荷物を文字通りひっくり返して、中身を確認(JKA職員さん数名)しつつ、同時進行でカバンを片付ける(選手)などと、お互い協力しつつ、てんやわんやしながら持ち物検査が繰り広げられます。
ボートレースではX線検査機が導入されているそうですが、うちにはそんな財力はありません。
実は、玉野競輪場が個室だから持ち物検査が頻繁に行われている…という訳ではなく、最近、全国の競輪場で抜き打ちの持ち物検査が増えています。
色々な裏事情もあるのですが、理由のひとつとして「Bluetooth機器の圧倒的普及」があります。
いまに始まった事ではないのですが…。
選手が意図的に通信機器等を持ち込もうとしなくても、近年のガジェット事情的に「ワイヤレスイヤホン等のBluetooth搭載小物がカバンやポケットに紛れ込んでいる」という可能性が高まったのです。
スマホはもちろん、ポケットWiFiだとか小型通信機器が増えましたからね…。
使用しなくても、持ち込めばそれは不正。
選手が意図していないうっかりミスでも、ダメなもんはダメなのです。
理由や事情がどうあれ、通信機器持ち込みなんて不正が表沙汰になると、公営競技のイメージダウンに直結します。
公営競技において「外部と通信可能な機器の持ち込み禁止」は、ギャンブルの公正安全の根幹に関わるお話ですから。
まあ、リアルな話、スマホなんかを持ち込んでいて持ち物検査に引っかかっている人なんて見たことがありませんよ。
大昔、ゲーム持ち込みに関するルール整備が整っていなかった時代に、WiFi機能こそ付いていないが、見た目がそのままPSPという中華ゲーム機を持ち込んでいた人が「紛らわしい」という理由でしょっぴかれた…という話は競輪学校で習いましたけどね。
「プロだから」、「厳しい競輪学校を突破した身だから」とかいう精神論以前の問題で、我々って仕事として競輪選手をやっていますから。
わざわざルールを破って、自ら仕事を無くすようなマネを進んでやる人って基本的にいないんですよね。
従って、現状では持ち物検査は業界内でのうっかりミス防止の啓発目的で行われています。
検査やるんだから、てめーら日頃から気を引き締めろよ!って事ですね。
警察のネズミ捕りのようなものです。
これ、業界内での抜き打ち検査ですから、業界からわざわざお客様へ向けて大々的に「選手には持ち物検査を行っております!」などとは公表されていない訳です。
こういう話題ってJKA(運営)から個人事業主である競輪選手に対して行われている内部コンプラの問題なので、「やってるなら客にも公表しろ!」と言われてしまうと、結構厳しいものがあります。
皆さんの会社だって、内部監査があれど「監査しました! 異常ナシ!」って社外に広告打ったりしませんよね(笑)?
日常において、異常なんて無くて当たり前ですから。
元々無いものを、「無いです!無いです!」って言う方が「なんかあるんか…?」と疑わしくなっちゃいますしね(笑)。
他の公営競技では、「X線を導入しました!」だとかのお話がニュースになってたりしましたが、あれって不正が発覚したがために「検査を厳しくします!」的なリリースを出す羽目になっている訳で。
競輪界って、現在の体制が整ってからはそういった不正自体が一件も出ていませんからね。
ただの「なくて当然の不正がないだけの日常風景」は、わざわざお客様に知らされる機会がないって事です。
多分、競輪界の持ち物検査の存在を知らなかったお客様も多かったのではないでしょうか?
うちの業界だって何だかんだとやる事やってんだぜ=我々選手は色々と苦労してんだぜ…というお話も、よければ知って頂ければ幸いですよ。
こういうポジティブな裏話は是非とも知ってもらいたいな〜と気まぐれに記事を綴ってみました。
また気が向いたら違った裏話をなんか書きますよ…気が向いたらな…。
んっ? ドーピング検査? あの話はちょっとぉ…。
では、また次回!
1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。