自転車を注文しよう!
フレームが届きました!
まだダンボールから出しただけなので、保護材が巻きついていますね。
あれっ、同じ状態のフレームが奥にも見えますけど...?
こちら、詰みフレーム...おっと、スペアフレームです。
後で詳しく書くのですが、フレームって注文してから実際に届くまで、早くとも2ヶ月程度かかります。
落車してしまい、自転車がぶっ壊れた!
でも、身体は大丈夫なので次走は走りたい...。
という時に、手元に使えるフレームが無かったらてんやわんやです。
もちろんコケてからの注文では間に合わないし、他人にフレームを借りる…という手もありますが、自分の身体に合うかどうか、セッティングが出るかも分からない大博打...!と、色々と大変なんですよ。
ってな訳で、僕は常にスペアフレームを新品で用意している、という事なんですよ。
…決して、届いたのに乗る気が起こらず忘れていた!とかいう意識の低い話ではないんですよ!
ホントだぞ!
さて、タイトルの話題です。
競輪選手の自転車はフルオーダーなのは、皆さんもご存知ですかね?
今回は、そんな自転車を注文して、家に届くまでの流れを書いていきますよ〜!
こちらは「寸法表」。
スケルトンだとか違った名称もあるのですが、細かいことはあんまり知りません…。
なんせ、フレームを作るにあたっての設計図の事です。
まずはこの自転車設計図を作るところからスタートです。
図面上にある数字をひとつずつ工夫して、少しでも進む自転車を作るのです。
某競輪漫画で「自転車の寸法はトップシークレット!」みたいなくだりがありますが、実際のところは、上位選手であろうが底辺選手であろうが、聞けば寸法くらい教えてくれます。
なんなら、流行や上手くいったフレーム寸法を競輪選手同士で共有したりするので、意外と他人に秘密にするような話題ではないのですよ。
まあ、僕が寸法をブログに貼り付けてしまうくらいにはオープンな話題です。
色んな考え方があるので、流行と一言に言っても色んな方向性があるのですが...。
分かりやすく極端な例を挙げると、直近に流行った「ビッグフレーム理論」です。
フレームって身長や体格に合わせて、ある程度標準の大きさが決まっているのですが、それに比べてかなり大きめのフレームを作る、というものです。
超大雑把に言うと、フレームを大きくすると、スピードに乗ると減速しにくいが、取り回しが悪くなる、という特徴があります。
その特徴が、現代のスピード競輪にマッチした、という訳ですね。
トップ選手がその理論のフレームを持ち出すと、次点以降の選手は同じ理屈のフレームに乗らないと同じ土俵にすら立てない!
そして、それが下位にも浸透する頃には業界の流行として定着している...という訳です。
おっと、すっごい話が逸れましたね。
このように、色んな理論を元に寸法表の数値を決め、フレームビルダー(または代理店)に電話をかけます。
物理的なセオリー(三角比的な)が決まっているので、選手側ですべての数値を固めるのは無理があります。
そのため、ある程度のサイズ感を伝えると、自動的にメーカー側で矛盾のないような設計図を作ってくださいます。
「上パイプは550mmで、ハンガーを下げたいです!」
みたいにアバウトに伝えてもいいですし、常連なら
「前回より流れる仕様にしたいので、オススメのやり方はありますかね?」
など、以前作ったフレームに対して相対的に相談しつつ注文する事もできます。
もしくは、
「ビッグフレームがいいんですけど、いい塩梅の形はありますか?」
等々…先述したような流行の仕様を伝えるだけでも、柔軟に対応してくださいます。
後は、フォークの形、パイプの種類、ラグの形状、溶接の方法、メッキをかけるか、かけないか...など、色々と細かい仕様も一気に決めていきます。
こんな感じで、色々と決める要素があるんですよ。
僕が注文しているPanasonicは企業としてキチンとパンフレット(できることリスト)がありますが、個人ビルダーさんだと工房に赴いて部品を直接見ないと、どんな仕様にできるのかすらわからない…なんて事もあります。
その辺は企業ビルダーであるPanasonicの分かりやすいところです。
ま、個人ビルダーさんでも電話で、「この辺は前が硬めになるようお願いします!」とか、そんな感じで投げると向こうがいい感じに決めてくれたりもしますよ。
また、フレームの硬さは、寸法と同じかそれ以上に性能を左右する超重要ファクターです。
しなやかなパイプ、カチカチのパイプ。
フレームサイズが大きくなれば物理的に柔らかくなり、小さければ硬くなる。
ラグの溶接で前を硬くしたり、後ろを硬くしたり、両方硬くしたり…。
そんな特徴をお好みで組み合わせて、試行錯誤して、自分に合ったフレームを作り上げるのです。
あとは色ですね。
僕は昔からホワイトにラグがシルバーのデザインのフレームしか作ったことがないのですが、メーカーによって色味が違ったりするので、その辺もこだわりが出るポイントです。
手前がBRIDGESTONE、奥がPanasonic。
ほら、シルバーの加減とホワイトのパール具合が全然ちがうでしょ?
ん?誤差?
こちとらその誤差にこだわってオーダーしてんだよォォ!
なめんなよ!
なんて、しょーもないこだわりも詰め込みつつ、部分や仕様を選んで、色を決めて、完成した仕様書にGOサインを出したらフレームメーカーに発注! という感じです。
お分かりいただけただろうか...?
ここまで、文字では長々としているくだりが、リアルタイムだと電話一本で完結してしまっている事を...。
ぶっちゃけ、フルオーダーフレームを作るって言っても、注文時に競輪選手がやる事は電話だけなんです。
一応、仕様書にサインする、的なやり取りはあるんですけど、その辺も常連だと適当なものです(笑)。
フルオーダーの品物って、何度も打ち合わせをして、話し合いを重ねてやっと完成!みたいなイメージがありますよね。
多分、僕と同じPanasonicのフレームを、自転車が趣味の一般の方がフルオーダーで決める! となると、何度も打ち合わせを重ねてやっとこさ、こだわりの一台を完成させる感じになると思います。
ただこの辺りは、プロの領域に入ってしまうとフレームなんて消耗品ですから。
年に何本も作って慣れたもんになってくると、電話一本で済んでしまう、割とあっけらかんとしたものなんですよ(笑)。
ひどい時だと「前回と同じのをお願いします!」と、お酒のおかわりのようなノリで注文する時もありますよ。
ま、PanasonicさんもPanasonicさんで「あいよォ!」的なノリで注文が通っちゃいますから。
繊細な技術の世界なのに、なかなか豪快なもんです。
そしてオーダーが通れば、順番でフレームを作ってくださる、という流れです。
ここまではかなりスムーズに来ましたね。
オーダーするまでは電話一本なのですが、実は長いのがその後の順番待ちです。
僕が制作を依頼しているPanasonicでは、大企業の力もありだいたい2〜3ヶ月のスムーズな納期でフレームを作ってくださいます。
逆に言えば、フレーム製作ってめっちゃスムーズにいっても最低2〜3ヶ月はかかるものなのです。
いわゆる個人ビルダー(むしろ個人がスタンダード)になってくると、少人数でフレームを作るため、多数の注文が捌き切れずかなりの順番待ちが発生するメーカーも少なくないのです。
パイプの溶接、研磨、塗装、部品の組み付け...と、フレーム製作って結構工程が多いですから。
それぞれの工程に対して順番待ちが発生するため、納期がどんどん後ろ倒しになっていくのです。
長いところだと1年以上の順番待ちもあるそうですよ...ヒェェ...。
この順番待ちを終え、数ヶ月、数年の時を経て、待ちわびたフレームがやっと到着!
冒頭の状態で、フレームが届くという訳ですね。
これだけ待ったんだから、走ってくれよォ〜!と祈る!
までが、フレーム製作の流れです。
お疲れ様でした。
話が横道に逸れたせいもあり、記事が長くなってしまいました(笑)。
よければ、競輪用フレームを製作する時の参考にしてくださいね。←作らんわい
ってな訳でまた次回!
1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。