洗濯に命をかける競輪選手たち
さて早速ですが……今からいくつか、アンケートを取ります。
皆様も競輪選手の立場になって考えてみてください。
では参ります。
Q.快適さを感じる競輪場を次の中から選んでください
A:宿舎が綺麗
B:バンクが走りやすい
C:洗濯機、乾燥機が多い
Q.競輪開催参加中、最も腹が立つ瞬間を選んでください
A:レースで良い着が取れなかった
B:後輩が働かない
C:洗濯機がなかなか空かない
Q.この中で、最も罪が重いと思うものを選んでください
A:誘導員早期追い抜き
B:ドーピング
C:乾燥機の洗濯物を途中で出す奴
以上です。
皆さんは何を選ばれましたか?
このアンケートを競輪選手100人に聞けば、まず間違いなく回答は偏るでしょう。
少なくとも、僕の身近な選手に聞いてみたところ、全員の回答が一致しました。
結果は…
C
C
C
です。
…いかがですか…?(笑)
まあ、タイトルで察している人がほとんどだと思いますけどね。(笑)
今回は、開催中の競輪選手がレースよりも(?)白熱したバトルを繰り広げている、洗濯にまつわるお話を書きますよ!
これは我が家の洗濯機。
安い洗濯機だけど、長らく健闘してくれています。
この機種の蓋が違うバージョンが競輪場に配備されているのをよく見かけます。
サンヨーとかのクッソ古い洗濯機もあれば、最近の格安中華家電が置いてあったり、競輪場の洗濯機事情、結構面白いですよ。
さて、競輪選手という存在、オッサンがたくさん集まって運動して…なんだかめっちゃ汗臭そう!
なんて思っておられるお客様っていらっしゃいますか?
まぁ、暑苦しい業界なのは事実です。
しかし実際のところ、真夏の開催でも汗臭い選手ってほとんど見たことがありません。
理由は明確です。
競輪選手は開催中の洗濯に命をかけているからです。
意外ですか?
競輪選手って、開催に行くと4日間の缶詰生活ですが、練習着や普段着を4日分持っていく訳ではありません。
旅行の準備をするシーンを想像していただければ分かると思うのですが、荷物でもっともかさばるのは衣類です。
レースに4日分の大量の衣類を持っていくと、スーツケースなんかでは手に負えないどえらい量の荷物になってしまいますからね。
必要最低限の衣類を持ち込み、毎日数回、超高回転で洗濯するのです。
競輪開催って、かなり服を着替えます。
前検日、競輪場に到着したら、移動用の小綺麗な服を脱ぎ練習着に着替える。
指定練習が終われば、シャワーに行き練習着を脱いで部屋着に着替える。
夜、風呂に入ったらパジャマに着替える。
開催日は、パジャマから部屋着に着替え、朝の指定練習で練習着に着替え、ウォーミングアップ前に着替えて、さらに本番用の服に着替えます。
終わったらダウンのため練習着に着替え、部屋着になり、以下前検日の繰り返し…。
必要最低限とはいえ、一日分の着替えだけでもかなりの量の洗濯物が出るのがおわかりいただけるかと思います。
着替えの頻度は人それぞれとは言え、だいたい全員がこのスパンで生活するのです。
人が少ないミッドナイト開催ですら、70人程度の選手が参加しています。記念競輪なんかだと、100人以上ですよ。
この大量の洗濯物を、参加選手が競輪場の限られた設備の洗濯機を奪い合い、必死に洗濯するのです。
ぶっちゃけ、レースよりも魂が籠った戦いがここにはありますよ。
ちなみに競輪場によりますが、設置されている洗濯機は宿舎、競輪場合わせて10〜20台程度のところが多いです。
設備が新しい場だとたくさん配備してくださっているところもありますが、少ないところはホント少ないです。
例を挙げると、我がホームバンク奈良競輪場は、宿舎各階に5台、風呂場に4台、検車場側には洗濯機ナシと、洗濯機事情がかなりシビアな場です。
ガールズ開催だと、その少ない洗濯機の中からガールズ専用の洗濯機を設けないといけない…という事情が発生するので更に少なくなったりしますよ。
先程チラッと触れましたが、大抵の場には上に貼ったぼくの家の写真のサイズの洗濯機が置いてあります。
いわゆる一人暮らしサイズですね。
スペックで言うと、5〜7kg程度対応の洗濯機です。
従って、大きい洗濯機でみんなの分を一気に洗濯! という訳にはいきません。
というか、オッサンと洗濯物を共有するの、なんか嫌ですしね(笑)。
少数の洗濯機を、参加選手およそ70人がひとり1台、しかも1日に数回使用するため、順番待ちがとてもシビアなのです。
「さあ洗濯をするぞ!」と洗濯機のエリアに足を運んで、すんなり空いていることは非常に稀。
脱水が始まり、あと5分と表示されている機械があればラッキー! というレベルですかね。
かと言って、あと5分だし、5分後にまた来よう! と思って席を外すと、その隙にすかさず誰かが次の洗濯を始めてしまいます。
残り数分の洗濯機を見つけたら、洗濯機の前で陣取りをしないといけないのです。
ほんと、競輪より位置取りがシビアですよ。
また、FⅠ戦など、S級選手がいる開催ではこの洗濯機競りが更に激しくなります。
やはり、S級選手はプライベートでもS級なんですねぇ…。抜かりねえぜ…。
そして、この激しい位置取りで発生するのが、違反行為です。
競輪と同じで、人は必死になるとルールを破ってしまう生き物なのでしょう…。
「まだ洗濯途中なのに、自分勝手に洗濯機を止めて中身を出す奴」
や
「乾燥機がまだ回っているのに止める奴」
更に
「おいそぎモードにしない奴」
が出現するのです。
これ、ほんと遺憾の意ですよ。
普段温厚で、レースでひどい落車をさせられても
「いいよ、お互い様だしな」
で済ませていた先輩が、修羅のような顔をして
「洗濯物出されとったわい!」
と顔を真っ赤にしていたのを目撃したことがあるくらい、洗濯にまつわるマナー違反は人を怒らせるのです。
脱水が終わっていないのに洗濯物を出される方は、まだ乾く時間が伸びるだけなので比較的許せるのですが…。
夜、寝る前に乾燥機を回して、翌朝に途中で出されて湿ったままの洗濯物を見つけた!なんて日には、もう怒りどころじゃないですよ。
また、少ない洗濯機を皆で高回転で使用するため、おいそぎモード等の時短モードで洗濯するのが暗黙の了解となっています(というか大抵の場にはおいそぎモードで回してください! という貼り紙がある)。
にも関わらず、標準モードで洗濯をする人、結構いるんですよ!
日本語読めねーのか!
本来ひとり15分で終わる洗濯が40分くらいかかる訳ですから。
これはラーメン業界で言う「ロット乱し」です。
正直、ドーピングやら早期追い抜きやら、あの辺の違反よりこの洗濯物マナー違反を取り締まってほしい! という選手、少なくないと思いますよ!
マジで、なんとかしてくれや!
はっ、熱くなってしまった…。
競輪選手としては底辺の僕がここまでヒートアップしてしまうくらい、みんな開催中の洗濯物については命をかけています。
豪快そうな選手も、小汚い見た目の選手も、競輪開催に入ると洗濯の鬼となるのですよ。
そして、我々はレース以外でもシビアな位置取りをしなければいけない世界なのです…。
競輪選手のお洗濯の世界、いかがでしたか?
良くも悪くも、競輪選手の普段の光景を想像して、身近に感じていただければ幸いですよ。
それでは、また次回!
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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。