「予備選手」知ってる?
お客様〜!
突然ですが、「予備選手」ってご存知ですか?
ご存知ないですよね?
いや、そりゃ中には知ってる方もいらっしゃるでしょうけど…。
ほとんどの方はご存知ないですよね?
ないことにしてくれ!(懇願)
SNS等で競輪選手が「○○競輪の予備が繰り上がったので頑張って走ってきます!」的な投稿をしているのを見たことがある方はおられますかね。
見たことがあるってことにしてくれ!(しつこい)
まぁ、知っている人も知らない人も、今回は予備選手にまつわるいろいろを聞いてってくれや。
ってことで、競輪選手の悲喜こもごも要素のひとつである「予備選手」について書き連ねていきますよ〜。
こちらは、ぼくの「予備」の自転車。
A級下位選手の僕ですら、予備の自転車やフレームは持っているものです。
特に、ぼくは過去に連続落車で続けざまに自転車がぶっ壊れて、身体は無事だけれど次走で乗るフレームがない! という、なかなか運の悪い事態に陥ったことがあるので、常に予備フレームを2台以上ストックしていますよ。
そんな予備要素の人間バージョンが、今回のテーマである「予備選手」なのですが、まず予備という単語には
「事が起こった、またはその事を起こす時のために、前もって準備すること」
という意味があるようです。
競輪開催、例えば非ガールズのFⅠ開催であれば、S級が「7人✕7レース」で49人、A級が「7人✕5レース」で35人、計84人が斡旋されます。
実は、この84人以外にもS級A級でひとりずつ、2人の隠れ斡旋者がいるのです。
それが「予備選手」。
予備選手の斡旋(以下、予備斡旋と書きますね)は、正規の斡旋と同じく、月末に発表されます。
予備斡旋されるのは主に地元競輪場。
たまーに同地区の近隣競輪場に呼ばれることもありますが、非常に稀。
例えば奈良の選手が、向日町や岸和田の予備選手に呼ばれることも、なきにしもあらずです。
予備斡旋はKEIRIN.JPのプロフィールページの出走予定の欄には表示されないので、基本的にお客様の目には触れませんが、競輪選手の手続としては通常の斡旋と全く同じように、参加/不参加を入力して送信しますよ。
先程「予備」という単語の意味を記しましたが、予備選手も全く同じ意味合い。
参加選手に急な欠員が出た時に穴を埋めるために、毎開催、各級にひとりずつ予備要員が用意されているのです。
ちなみに、時間に余裕がある時に欠員が出た場合は、予備選手を使わずに「追加斡旋」にて追加選手を呼びます。
あくまで”急な欠員”に対応するため、予備選手は取っておく訳ですね。
更に、予備選手を繰り上げた上で更に欠員が出た場合には「流用斡旋」というイレギュラーなシステムもあるのですが、この辺の話までいくといろいろとややこしいのでまたの機会に持ち越しますね…(笑)。
予備選手の仕事は、待機です。
当該開催にいつ繰り上がっても良いように、出走の準備をして待機します。
ひと言に出走の準備と言っても、車に荷物を積んでおくとかいうレベルじゃないですよ(笑)。
もし繰り上がった場合に待っているのは地元戦。
万が一出走することになった場合に、準備不足で地元のお客様の前で不甲斐ない走りをするのは絶対に嫌ですから、一応その開催に向けての練習やケアをするのです。
直前欠場者がなく前検日を迎えた場合も、競輪場入りして現場待機です。
非常に稀な事案ですが、前検日の検査不合格という場合もありますからね。
そして、全選手の検査合格を見届けて予備選手のお仕事は終了。
お疲れ様でした。
念には念を! と地元戦に向けての練習をして、入念にケアをし、現地にまで駆り出された挙句に
「ハイ、繰り上がりませんでした! お疲れ様〜」
と日当を貰い、家に帰らされる虚しいお仕事。これが予備選手なのです。
日当が出るなら、待機だけで金貰えて楽でいいじゃん! と思われるかもしれません。
ただ、当事者の競輪選手としては結構複雑な気持ちになる斡旋なのです…。
理由はいくつかあるのですが、まずひとつ。
予備斡旋は1本分の斡旋として扱われる点です。
それの何が残念かと言うと…。
競輪選手はできることなら、たくさん走ってたくさん稼ぎたいのです。
競輪選手は毎月2〜3本の斡旋が確約されていますが、予備斡旋が入った月は基本的には2本の正規+予備という形で、月3本斡旋を貰った扱いになる訳です。
斡旋が2本の月は追加斡旋が来がちなのですが、追加斡旋は正規斡旋が2本しか入っていない選手が優先となるので、予備斡旋が入っている月は追加を貰える可能性も著しく下がるんですよね。
ということは、実質的に「予備が入っている月は正規斡旋2本がほぼ確定する」ということなんです。
一応、繰り上がらなかったら追加が来る可能性はあるので「ほぼ確定」という表現にしましたが、繰り上がるかどうかがわからない状態では追加が来ないので、月末に予備が入っていた場合は絶望的です。
3本走った方がたくさん稼げる訳ですから、なんだか少し損した気分になりますよね(笑)。
そしてふたつめの理由が、先程も触れたのですが
割とちゃんと準備して待機するので、心がしんどい点です。
仕事、入るのかな…入らないかな…と心配している時間って、結構疲れます(笑)。
ここまで散々、地元戦のために準備する! だとか、稼ぎたいからできれば走りたい! と書きましたが、
実際に予備で待機していると段階的に
「いつ繰り上がっても頑張るぜ!」
↓
「前検日前日に欠場ないし繰り上がらなさそうだな」
↓
「前検当日まで来たし、もう今回は入らないだろ」
と、少しづつ気が緩んできます。
でも、もし繰り上がったら地元戦だし…! 気を抜いてはいかん! という心の葛藤、おわかりいただけますか?
正直、前検日に繰り上がりの電話がきたら「嘘やん! ええて!」という気分です。
公務員をはじめ、準休日に出動待機がある仕事に就いておられる方なら、休みだけれど休み切れない…電話が来ませんように…と祈り続けて、微妙に心が休まらない気持ちをわかってくださるはずです。
更にもうひとつ…。
この予備斡旋、欠場すると正規斡旋を1本欠場したのと同じ扱いになるのです!
病気で欠場するには診断書が必要ですし、自己都合での直前欠場であれば評価点がマイナスされる直前欠場ペナルティに計上されてしまうのです。
ひとつの「斡旋」なので、職務上当然ではあるのですが…予備選手には葛藤要素が多いんだよ!
いろいろと書いてきましたが、もしあなたが予備選手として斡旋されたと想像してみてください。
ちょっと気が重い気がしませんか?(笑)
実際、どんな形でもお仕事を頂けることは本当に感謝しないといけないことです。
日当も貰えますし、予備選手は開催の補充の第一候補か、支部によっては誘導の権利が手に入ります。
でも、本音を言うと
「予備で斡旋するなら正規斡旋を1本くださーい!」
ってところですね。
予備選手の心の葛藤、ご理解いただけましたか?(笑)
激闘の裏で、こんな地味な心の戦いをしている競輪選手がいることも知っていただければ幸いですよ。
ってことで、今回は予備選手のいろいろでした。
ちなみに、僕は奈良に移籍してから何度も予備選手を経験しましたが、まだ繰り上がったことがありません。
できれば今後も、気楽な予備選手生活を送らせてくださーい!
ではまた次回!
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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。