順不同の強さ 嘉永泰斗
illustrated by Ayu
「物事は順番が大切」
「ちゃんと順序は守ること」
幼い頃から何度となく言われてきた言葉…。
誰でもこの言葉を当たり前のように受け入れてきただろう。
もちろんわたしもそのひとりだ。
だが、その順序というものにとらわれることなく、結果を出したのが嘉永泰斗選手だ。
嘉永選手を初めて見た時、その名前のインパクトもさることながら、そのイケメンぶりとスタイルのよさに驚いた。
「顔ちっさ!」と思わず叫んだのを覚えている。
そんな嘉永選手が初めて地元記念の決勝に乗った時、わたしは久留米競輪場で中継の司会をしていた。
準決勝まで6人が勝ち上がっていた地元勢が次々と姿を消し、決勝に乗ったのは嘉永選手と瓜生選手2人だけになった。
北津留選手との並びが注目されていたが、なんと嘉永選手が選んだのは北津留選手の番手だったのだ。
この選択にも驚かされた。
年齢だけでなく実績も断然上の北津留選手の番手を選択した嘉永選手は、初の記念の決勝でも結果を出さなければいけない立場になった。
平原選手や松浦選手という強豪相手に九州勢はどうするんだろう?
北津留選手の走りを含めてとても楽しみな決勝になったな、と思ったのをよく覚えている。
結果はみなさんご存知のとおり。
北津留選手の突っ張り先行に乗った嘉永選手が番手から出て優勝。
自らが自転車を始めるキッカケにもなった、憧れの先輩の瓜生選手との地元ワンツーを決めたのだ。
あの決勝戦では後輩の前で突っ張った北津留選手も、優勝した嘉永選手と同じくらいの拍手喝采を浴びていたっけ…。
隣にいた緒方浩一さんと共に、歳を重ねての涙もろさを実感した開催であった。
そんなドラマティックな記念優勝を、先輩の後ろという位置からもぎ持った嘉永選手。
「これからは自分が前を回って九州の先輩達に恩返しをしたい」
という言葉のとおり、先輩方の前で頑張る姿をたくさん見てきた。
後輩に厳しい荒井選手に、「泰斗となら心中できる」と言わしめるくらいに成長したのだ。
その頑張りの原動力はすべてあの地元優勝と、もうすぐ復興される地元バンクで走りたいという想いだろう。
その嘉永選手が2度目の記念優勝を函館で決めた。
今度は自力で。しかもバンクレコード更新のおまけつき!
勝ち上がりの内容は積極的で攻める走り。
決勝は彼らしい冷静かつクレバーな立ち回りが光った文句なしの優勝だった。
たしかに順番は大切かもしれない。
だけどその順番にとらわれすぎてしまい、大切なチャンスを逃してはならない。
チャンスを掴んでから再び努力し、自分を磨けばいいのだ。
順番が前後することで得られる結果もある。
ということを彼に教えてもらい、順不同という言葉が美味しい海鮮と同じくらい好きになった函館記念だった。
とかく順序や序列が重視されていた世の中だが、それに風穴を空けるのはやっぱり若い力なのだ。
このコラムでも取り上げた山口拳矢選手のダービー優勝から嘉永選手、宇都宮記念の真杉選手と、若い選手の優勝が続いている。
この流れがどこまで続くのか、それにストップをかける選手が出てくるのかも含めて、今後の競輪界が楽しみだ♪
スピードチャンネル初代キャスターとして競輪デビュー。以来、競輪の魅力にどっぷりハマりウン十年…。全国各地の競輪場でキャスターとして活躍を続けている。 滑舌の良さとベテラン解説者にも全く物怖じしない鋭いツッコミが武器。「トリガミパトローラー」「メロンチャンス」など、独自のキャラクターで番組を盛り上げる。