こだわることの強さ 野口裕史|DMM競輪

こだわることの強さ 野口裕史

illustrated by Ayu




自在選手が最近の流行り。

タテもヨコもこなせる器用な走りは、どんな展開でも対応可能で大崩れが少ない。


でもそういう選手が揃ったレースほど難解なものはない。4分戦ならもうお手上げ状態だ。

「順番がきたら仕掛けます」

っていうメンバーで、

「その順番を教えてくれよー」

と思いながら必死に予想しているのは、わたしだけではないはずだ。


最近そんな時に口をついて出るのは

「はぁー、このレースに野口くんがいたらなー」

なのだ(笑)。

彼の走りは先行一本! 一寸のブレもない。

体格同様頼りがいしかない。

いつでも出しきるレースをしてくれる。

当然相手がいることなので出し切れない時もあるが、出し惜しみしているのは見たことがない。

展開を予想するにあたってとてもありがたい存在だ。

そんな一本気なレースが彼の性格を表しているのではないかと想像してしまう。



そんな中、『的中街道まっしぐら』の配信中に見た平塚ナイターの準決勝。

中西大選手、先輩を連れて行く気マンマンの宮下一歩選手相手に、真っ向勝負になりそうな野口選手は分が悪いと思っていたが、なんと逃げ切ったのだ!

他の選手もタテありヨコありで激しく、本当に見応えがあった。


車券がハズれたにも関わらず、「震えたー!」と思わず叫んでしまったレースだった。

そうかと思えば北井選手相手に単騎で仕掛けたレースもあり、富山記念の決勝では北井選手の番手をまわっていた。

「野口くんの優勝を見たいけれど、番手での優勝は似合わないな…」

そんな複雑な想いで配信をしていた。

結果、不慣れな番手戦で優勝は叶わなかったが、彼ができる精一杯の走りで、前を志願した北井選手の気持ちに応えていたと思う。


だけどやっぱり彼は先行職人なのだ。

先行したらめっぽう強いけど、イレギュラーはちょっと…。

不器用というイメージがついてまわるが、それは真正面から誠実に自分の戦法に向き合っている証拠。

俯瞰して物事を見たり、先の事を見据えて戦うのも選手としてもちろん大切だ。

だけど、彼のように周りには目もくれず、ただただ自分のできることだけをやる一途な姿勢も、とてもカッコいいと思う。

誰にでも真似できることではない。

だからみんな彼の走りを応援したくなり、勝っても負けても納得できるのだと思う。



思い返してみても、なんでも完璧にこなし、トーク力のある男性よりも、少し口べたで照れ屋な男性の方が実は女子にモテていたような…。

一生懸命で誠実な人を嫌いな女性はいませんから!

あの高倉健さんも「自分、不器用ですから」って自ら言ってましたよね。

不器用もとことんまでつきつめたら、誰にも負けない強い信念と力が生まれ、魅力になるのです♡



いいレースってなんだろう?

結果はどうあれ、選手達がそれぞれの持ち味を出して力を余すことなく闘いぬいてくれるレースだとわたしは思っている。

大切なのは勝ち方、負け方。

これからもこれぞ野口選手だ!

という先行へのこだわりの詰まった走りと、展開推理に優しいレースに期待したい。

スピードチャンネル初代キャスターとして競輪デビュー。以来、競輪の魅力にどっぷりハマりウン十年…。全国各地の競輪場でキャスターとして活躍を続けている。 滑舌の良さとベテラン解説者にも全く物怖じしない鋭いツッコミが武器。「トリガミパトローラー」「メロンチャンス」など、独自のキャラクターで番組を盛り上げる。

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