豪雨の選手紹介|DMM競輪

豪雨の選手紹介


 




雨降って地固まるとはよく言ったものです。
 
 
ほんでもね、地面がアスファルトの競輪場においては雨が降ったら走路が水浸しになるだけなんですよね。
 
 
競輪選手は地固まらない。
 
 
びちゃびちゃに濡れて滑るだけ。
 
 
雨水は排水されるだけ。
 
 
あーあ、趣もクソもねえな。
 
 



脚見せ、正式名称は選手紹介
 
 
通常、自転車に乗って、バンクを2周(ミッドナイトは1周)走り、位置や走り方などの表明をする、というレース前のイベントです。
 
 
ボートのスタート展示や、競馬のパドック、オートの試走と違い、競輪の選手紹介は顔見せ的な要素が強いです。
 
 
言い方は悪いけど、競輪だけは脚見せが無くてもそない変わらん...というか。
 
 
まあ、我々走る側としては、バンクのコンディションや、自転車の感覚などを実走で確認できるので、大事な時間ではあります。
 
 
また、脚見せの後には再度自転車の検査が行われます。
 
 
一度、実走を挟んでから検査をすることで、レース直前に自転車のトラブルを減らすことにも繋がるのです。
 
 
 
 
 
さて、この脚見せ、ごくごく稀に荒天等の理由で選手紹介が一礼で済まされる事があるのです。
 
 
競輪をよく見ておられるお客様なら、たまーに目にする事があるのではないでしょうか。
 
 
先日、ひっさしぶりに一礼選手紹介を経験しました。
 
 
もうすぐ選手生活も10年になりますが、一礼での選手紹介なんて非常に珍しいイベントです。
 
 
そんな滅多にないイベント、我々競輪選手はもちろん、JKAスタッフの皆さんもてんやわんや。
 
 
現場がわちゃわちゃして面白かったので、リアルなレポをお届けします。
 
 
 
 
 
さて、時は11月末、いわき平競輪場。
 
 
予選で7着を取ってしまい、不貞腐れたぼく。
 
 
2日目に自暴自棄先行を敢行し、なんと1着
 
 
最終日の一般戦を回避し、特選競走、第5Rを走る事になったぼくだったが...。
 
 
この日の天気は雨。
 
 
1Rがはじまる頃には結構激しい雨が降ってきました。
 
 
とはいえ、競輪に天気は関係ありませんから。
 
 
「雨か〜濡れるのやだな〜」などと言いつつも、レースに臨む姿勢は真剣そのもの。
 
 
ウォーミングアップを終えて気合十分!
 
 
選手は自分が走るひとつ前のレースの締切5〜10分前あたりに、直前控え室に招集されます。
 
 
直前控え室では点呼が行われ、雨天の日はこのタイミングで選手紹介の際に着るカッパが配られます。
 
 
レース前の競輪選手って、皆さんが思っている以上に真剣そのものです。
 
 
そんな状態で、今から「勝負」するメンバーがひとつの部屋に待機させられるんですから。
 
 
緊張感もあり、直前控え室には結構ヒリついた空気が流れていますよ。
 
 
支給されたカッパを着て、レーサーシューズを履き、ヘルメットを被って準備完了。
 
 
ひと息ついたあたりで、ひとつ前のレースが発走です。
 
 
直前控え室にもテレビがついているので、中継映像が映るのですが...。
 
 
もう、画面越しにわかるレベルの豪雨。
 
 
大粒の雨がナイター照明に照らされ、水浸しのバンクが光を反射し画面が真っ白に輝いています。
 
 
もはや画面が雨。
 
 
真剣な空気の直前控え室、7人の”戦士”たち。
 
 
静寂の中からどこからともなく「雨やば...」という声が聞こえてきます。
 
 
コラ! 誰だよ! レース前だぞ! 集中しろ!
 
 
 
「これはちょっとヤバいな...」
 
 
「このレベルはなかなか無いっすよね」
 
 
 
コラコラコラ〜! 今から「闘う」相手だぞ!
 
 
和んでる場合ちゃうぞ!
 
 
 
ぼく「もはやカッパ意味無いっすね(笑)」
 
 
 
対戦選手「ほんとだねぇ〜」
 
 
 
コラコラコラコラ〜‪💢
 
 
一応、お客様に誤解を与えないよう念を押しますが、いつもこんな感じで和気藹々としている訳ではないです。
 
 
ホンマにレースできる?ってレベルの荒天の場合、レース中止が頭をよぎるので、待機している我々は流石にソワソワしてしまうのです。
 
 
そんな感じで和んでおっと情報共有をしていると、JKA職員さんが登場。
 
 
 
「大雨のため脚見せはナシです! 一礼でお願いします!」
 
 
 
と、短めの業務連絡。
 
 
直前控え室の選手の間にも、ホッとしたような空気が流れます。
 
 
ただ、その業務連絡を残して、職員さんは去っていきました…。
 
 
取り残された選手たち、迫る選手紹介時間。
 
 
 
「カッパって着るんですかね?」
 
 
 
「いや、屋根の下だから脱ぐでしょ」
 
 
「レーサーシューズって履くんですか?」
 
 
 
一礼選手紹介なんて滅多にない事なので、その場にいたベテラン選手も「どうするんだろう…前回どうしてたっけ…」と右往左往。
 
 
その後、職員さんを呼びに行って服装を問うと
 
 
 
「選手の方で合わせてください!💢」
 
と、何故か強い語気で怒られました(笑)。
 
 
 
まあ、多分職員さんも滅多にないイレギュラーで、てんやわんやしていたんでしょう。
 
 
“勝負”を控えるプロレーサーたちもこれにはビックリ。
 
 
戦々恐々とはこの事ですね(ちがう)。
 
 
誰からともなく
 
 
 
「えっ、じゃあ年長者に決めてもらう形でいいっすか…」
 
 
 
ベテラン選手「俺が決めるの? じゃあ全員カッパありで行きましょうか…」
 
 
 
そして、皆揃って(屋根の下なのに)カッパを着てカメラに向かって一礼。
 
 
重ねて誤解されないように念を押しますが、この後控え室に戻ると、すぐに勝負の前の空気に様変わり。
 
 
本番では賞金を奪い合う「敵」として、本気で闘い、蹴落とし合うレースをしましたよ。
 
 
相変わらず弱まらない豪雨の中でしたが、失格や落車もなく、公正安全なレースを走り切ることができました。
 
 
 
 
 
この苦境を乗り越えた7人のレーサーたちの心の中に、なんとも言えない「結束感」が生まれていたことは、言うまでもないだろう…。
 
 
以上、一礼選手紹介という貴重なイベントを経験した競輪選手の現地レポでした!
 
 
ではまた次回〜。

1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。

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