バンクを歩いてみよう!
どうも、ハイビジョン撮影に定評のあるフォトグラファー(笑)たむらです。
皆さん、競輪場ってキチンと見た事ありますか?
そりゃ、中継カメラからの遠景は毎日のように見ておられる事でしょう。
ですが、人間の目線で、我々競輪選手が走っている競輪場の光景って、意外と見た事ないんじゃないですか?
あんまり無いですよね(圧倒的決めつけ)。
巷ではバンクウォークなんてイベントもありますが、そう頻繁にあるものではないですからね。
という訳で、本日は我がホームバンク、奈良競輪場のバンクを歩きながら写真を撮影してきたので、小ネタを挟みながら皆さんに見ていただこうと思います。
まずは敢闘門をオープン!
僕たち競輪選手が出走前に見る光景です。
中央走路を通って発走機へGo!
あれ…走路って意外と汚いんだな…と思った皆さん、その通りです。
陸上競技場とかだと地面が結構綺麗に見えますが、同じ屋外競技場でも競輪場の路面は特殊なアスファルト(ウォークトップといいます)が使用されている事もあり、かなり汚れが目立つ感じになっています。
鳥の糞まで落ちてるしな…。
落車すると、この汚い路面に叩きつけられます。
擦過傷に汚れが入ってバイ菌に感染してしまうと地獄なんですよ。
なんてブツブツ言いながら歩みを進めると、ホームストレッチ側に到着です。
発走機がありますね。
ではとりあえず、この付近の小ネタをひとつ…。
矢印で指した部分に切れ目がありますね。
実は、地面のこの切れ目のラインの内側部分だけ、鉄板が入っているのです。
理由はもちろん、発走機が通るから。
競輪場の地面やウォークトップって、実は結構柔らかい素材です。
発走機のような重量級の機材が通ると、割とすぐに凹みができてしまうんですよ。
そのため、このエリアだけ補強の鉄板が入っていて、その境目に切れ目が入ってしまう、という訳です。
発走機付近の地面にフォーカスを当ててみましょう。
この矢印の部分は、自転車のタイヤ痕です。
なぜここだけ均等な距離でタイヤ痕が残っているかと言うと、発走機から出る時にタイヤが思いっ切りグリップするからです。
S取りって、映像ではスポーンと出ているだけに見えるかも知れませんが、実は全員、結構全力に近いトルクで踏み込んでいるんです。
その全力具合が、目に見えるタイヤ痕となる訳ですね。
実際にバンクに立ってみると、このようなタイヤ痕が至る所に見られます。
発走機から見る景色。
この縦のシマシマすべてがタイヤ痕。
ホームストレッチの直線って、映像ではフラットに見えると思いますが、実はここにも少しカント(傾斜)があります。
そのまま進んで1コーナー。
カントが急勾配になってきました。
さらに進んで、1センター。
バンクの楕円の頂点部分、最もカントが立っている部分です。
うーん、カントの角度の凄さを伝えたいんですけど、写真だとやっぱ難しいですね。
登ってみました。
たかーい!
伝わるかな?
カント頂点の1番上に登ると、高さはビルの2.5階相当です。
フェンスに激突する落車が危険と言われているのは、この高さから猛スピードで落下するから。
想像するだけで肝が冷えますね。
2コーナーを超えて、バックストレッチ。
内外線のちょっと外側、捲り選手の目線です。
捲りに行って、3コーナー入口で牽制を食らうと、この登り坂を外回りしないといけないのです。
そりゃスピードが止まりますよねぇ。
更に、外からインを突いた選手がやけに加速するのも下り坂を使っているから…なのです。
実際にバンクを歩くと、そういう所も見えてくるので面白いんですよ。
この不自然な向きについている傷は、落車の傷跡です。
先述した通り、ウォークトップって結構柔らかいので、落車して金属の塊である自転車が猛スピードで滑るとすぐに傷ができるんですよ。
凹みが大きい場合、ハンマーで物理的に叩きます。
すると、凹みが均(な)らされてボコボコがマシになるのです。
すごい力技ですよね。
3コーナーを乗り越え、2センターでスピードに乗ったら後は4コーナー!
ゴール前勝負!
奈良競輪場の4コーナーは、選手に「魔境」と呼ばれています。
短走路の激戦のゴール前、接戦でもつれて落車が多いから! というのは勿論ですが、まずは4コーナー付近の路面を見てください。
ズームアップ
あらら、なんだか路面の割れ目やツギハギが多くないですか?
そうなんです。
奈良競輪場の4コーナー付近って、バンクが強烈にボコボコなのです。
猛スピードで突っ込むと、タイヤがバウンドするレベル。
このデンジャラス感から、奈良競輪場の4コーナーが「魔境」扱いされているのです。
魔境を乗り越え、ゴールまで全力でもがき切れ!
どりゃー!
バンクを一周!
無事ゴール。
お疲れ様でした。
余談ですが、自分が自転車を全力で漕いでいると仮定していただいて、地面のゴール線って目視で認識できると思いますか?
競輪選手のハンドル投げの上手い下手なんて話が出ますが、あれってマジで勘であり“感覚”なんですよ。
早く投げてしまうとスローリプレイの際に晒し者にされ、お客様に「残念ハンドル投げ」なんて言われたりしますが…。
ほぼ目視で認識できない地面の線に勘でハンドルを投げるため、しんどければしんどいほど
「はよ終わってくれ!」
というメンタリティが溢れて、早く投げてしまうのです。
お分かりいただけましたか?
さて、最後に筆者登場です。
あっ…お腹が…。
変な角度に足を上げているので、腹圧がかかったんすよ。
直立したら凹みます。
きっと。多分…。
実際に人間が立つことで、バンクのサイズ感、主に内外線からイエローラインの距離感を表現してみました。
イエローラインは内外線間の4倍ですが、そもそも内外線間が意外と狭い!
案外、手を伸ばせば届く距離なのです。
悪質とされる斜行や押し上げの失格って、意外と簡単に届いてしまう距離なんですよ…。
横の動きによる失格はお客様の車券をパァにする行為なので心から気を付けないといけませんが、こう見ると、結構簡単に動けてしまう距離感…ってのがお分かりいただけるでしょうか…?
なーんて色々な言い訳や小ネタを並べながらの擬似バンクウォーク、いかがでしたか?
また気が向いたら、許可が取れる範囲で競輪場の裏側を撮影したいと思いますのでお楽しみに(記事を書くとは言ってない)。
ではまた次回!
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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。