鎖骨骨折は軽傷?


「擦過傷だけで軽傷です!」←全身がズルムケ、打撲がとても痛い。
 
 
「肋骨骨折だけでした!」←肋骨骨折は割と痛い。
 
 
「鎖骨が折れました! 鎖骨で良かったです」←鎖骨骨折も割と痛い。
 
 
競輪選手って、よくこういうコメントを出しますよね。
 
 
本当は痛いのに。
 
 
なんだか、「競輪選手にとって骨折は軽傷なんだよな〜! 痛くないんすよ〜!」とでも言いたげな自虐風自慢というか、厨二病というか…。
 
 
テンプレートを言いたいだけのちょっと寒いノリというか…。
 
 
でも皆さん、実際に競輪選手をやってみると分かります。
 
 
このコメント、別に「言いたいだけ」ではなく、本当に軽傷だと思って言ってるし、鎖骨骨折ならまだ良かったと思って言っております。
 
 
競輪選手は脳がおかしくなっているのか?って、まあちょっと脳のネジが外れてる人が多いのは否めませんが…。
 
 
(文脈上は)そういう訳ではありません(笑)。
 
 
って事で、今回は競輪選手はどういった怪我から重症感が出るのか…というところを語ってみます。
 
 
 
鎖骨骨折は軽傷
 
 
「競輪選手にとって怪我は勲章! 鎖骨骨折なんて怪我のうちに入らねェ!」
 
 
みたいな、昭和の根性論の話ではないです。
 
 
鎖骨が折れたら普通に痛いし、いくら競輪選手だからって日常生活に支障が出ますよ。
 
 
でもね、鎖骨骨折って、割と早期の段階から練習ができるんですよ。
 
 
鎖骨骨折の治療法は主に2つあります。
 
 
ひとつは、保存療法。
 
 
骨が大きくズレていなければ、放置して日にち薬でくっつくのを待つという方法。
 
 
これは、骨折というよりヒビのレベルなので、ウェイトトレーニングなど高い負荷をかけさえしなけれは、割と普通に練習ができちゃいます。
 
 
もうひとつは、手術です。
 
 
鎖骨が激しく損傷し、体内で粉々になった場合にはプレートで固定。
 
 
鎖骨が割れてしまいズレが生じている程度なら、骨にワイヤーを通す方法で固定します。
 
 
実は、こちらのパターンでも、手術を受けて固定さえしてしまえば練習ができてしまうんですよ。
 
 
無茶しすぎ! とかじゃなく、本当にできちゃうんです。
 
 
そりゃ競技として行うのは厳しいですが、自転車という運動自体は、ヨボヨボのじいちゃんばあちゃんから、身体を動かせなくなるレベルの大怪我をした人間がリハビリ初期に体力作りで使うレベルの「低負荷リハビリテーションスポーツ」です。
 
 
とてつもないパワーを爆発させる競輪という種目でも、乗っている乗り物が自転車である以上、基本動作はリハビリに使われるような動きと同じな訳ですよ。
 
 
つまり、無茶をせずに低負荷の基礎的な動作をする程度なら、鎖骨がくっついていなくても、ある程度固定ができていれば練習を継続できちゃうんです。
 
 
競輪選手はいくら下位の選手でも、ローラーやワットバイクなどの室内固定自転車マシンを所有している、もしくはいつでも使える環境に身を置いています。
 
 
地面を走ると、段差などの振動で骨がズレるリスクがゼロではないですが、まあ室内練習ならほぼノーリスクですよね。
 
 
「鎖骨骨折は職業病」と言われるほど件数が多い世界なので、みんなが”どれくらいの練習ならやれるか”を共有して知っているのも大きいかもしれません。
 
 
同じ理屈で、肋骨骨折も「やれる治療がない」怪我です。
 
 
肋骨骨折の場合は肺が近すぎるので、手術による固定ができないんです。
 
 
もちろんえげつない破断をして、肺に危険が及ぶレベルの場合は例外的にボルトによる固定が行われる事はあるらしいですが、それはあくまで例外。
 
 
基本は保存療法という事になります。
 
 
…つまり、練習できちゃうんですよ!
 
 
無茶をしているように思えますが、我々はやはりレースを走って生活のお金を稼いでいる身。
 
 
休めば休んだだけ、未来の自分に負債となって降りかかってきます。
 
 
復帰時に体力を少しでも落としたくないので、乗れるのであれは、低負荷であっても自転車に乗り続けておきたいものなのですよ。
 
 
 
で、どこからが重症?
 
 
まあ、ここまでの話の流れである程度は予想がつくと思いますが…。
 
 
競輪選手の世界における”重症”は、早期の練習復帰ができなくなる怪我です。
 
 
例えば、体幹にまつわる怪我。
 
骨盤や背骨、足の骨の骨折は人生に関わる大怪我です。
 
 
仮に手術で固定できたとしても、ガチガチの安静期間があります。
 
 
ひどい時にはギブス固定も有り得ますからね。
 
 
当然ですが長期入院、リハビリから始めなくてはいけません。
 
 
また、軽い肋骨骨折でも、運悪く骨が肺に触れてしまうと結構簡単に肺気胸や肺挫傷が起こってしまいます。
 
 
そういう内臓系の怪我をおった場合は、流石に脳のネジが外れかけている競輪選手も大人しくしていますよ。
 
 
僕も、8月の落車で肩を脱臼骨折(関節が外れて、同時に関節周囲の骨が折れる)してしまい2ヵ月ほど戦線を離脱していたのですが、最初の2週間は安静を言い渡されました。
 
 
一応、脱臼骨折は全治3ヵ月、リハビリを考慮する場合は全治半年となるそうです。
 
 
ついでに肋骨骨折と肺挫傷もあったので、お医者さんに言い渡された安静期間は素直に守りましたよ。
 
 
つまり、これは「重症」の域に入る! と胸を張って言いたいのですが、何だかんだで2ヵ月程度でレースに復帰できてしまいましたから…。
 
 
重症と言いにくい何かがありますよね(笑)。
 
 
さて、ここまで「怪我をして当然」のお仕事、競輪選手の感覚を前提として書いてきましたが、お客様をはじめ一般の方々は怪我した際に真似してはいけませんよ(笑)。
 
 
する気もないと思いますが(笑)。
 
 
地元に、元プロ野球選手の同級生がいます。
 
 
スポーツ選手として生きた珍しい人種同士、いまでも仲良く、たまにご飯を食べたりするのですが、今回の怪我で2ヵ月で復帰する話をしたら、正気を疑われました。
 
 
競輪選手は賭けの対象という事もあり、華々しいリスペクトが集まるようなスポーツ選手ではありませんが、実は様々なスポーツ業界の中でも、個人のスポーツ医学やケアの知識が豊富で、かつ怪我から復帰するという実践知識を持つ、泥臭さという意味では他の追従を許さないエキスパートスポーツの世界なんですよ。
 
 
以前、当ブログで解説しましたが、競輪選手には有給なんてありません。
 
 
しかも、個人の保険や休業給付を考慮しても、普通に走る賞金には一切及びませんから。
 
 
怪我で休んでる期間は、文字通り損しかないんですよ。
 
 
過去記事:【長期欠場する競輪選手】
 
 
レースを走らないと稼げない、(金銭的な意味で)誰にも助けて貰えない個人事業主ですから、皆走るために必死なんです。
 
 
だからこそ、業界全体をあげて”怪我から早期復帰するための知識”を積み重ねていった結果、当記事で紹介した通り「鎖骨骨折は軽傷」などという、もはやガラパゴス化した概念が存在するって訳です。
 
 
ご理解いただけただろうか…?←破綻した記事の締め方
 
 
って事で、競輪選手の怪我に関する感性が狂っている話を深堀りしてみました。
 
 
余談ですが、「怪我の回復」にステータスを全振りした結果、そのまま整骨院が開けるような医療機器や健康グッズを持っている選手も多いです。
 
 
そんな話もいつか書けたら書きますね〜(書けるとは言っていない)。
 
 
ではまた次回!

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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。

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