12月になると思い出す… 古性優作
illustrated by Ayu
今年、この人の活躍は目を見張るばかりだ。
年頭の全日本選抜を優勝し、早々とグランプリの切符を手に入れた。今の時点でGⅠタイトルを3つも獲っている。
地元の高松宮記念杯は初日に落車。
痛み、不安、重圧…すべてを克服して優勝を勝ち取り、エースとしてファンの期待に応えられた安堵と喜びがあの涙にすべて現れていた。
あの姿にヤラれてしまった女子も多いのではないか。
もちろんわたしもそのひとり。
いつの時代も強い男が滅多に見せない涙は、女性の心を捉えて離さない。
12月の別府記念が来るたびに、古性選手で思い出すことがある。
彼がグランプリの常連組になるもっともっと前…かれこれ8年ほど前の話だ。
大分空港にとても美味しいお寿司屋さんがある。
わたしは、別府の仕事が終わると必ずそこに行き、飛行機に乗るまでの時間を楽しみにしていた。
その時も、中継が終わるとそそくさと空港に向かい、お寿司屋さんに駆け込み、カウンターに座り、ビールを頼んでひと息つくと、隣にひとり文庫本を読みながらお寿司を待っている青年が…。
それが古性選手だった。
その頃からヨコがめっぽう強く、レーススタイルもアグレッシブだった。
加えてワイルドな外見と、そこで目にした物静かで上品な佇まいは、ギャップがあって驚いた。
隣になったよしみで一緒にお寿司を食べ、初めて話しをしたのだが、自分の生活基盤を安定させてもっと強くなりたい、という向上心が溢れていた。
さらに驚いたのはその後。
彼が乗る飛行機の出発時間が近づき、先に席を立った彼は、なんとわたしのお会計まで済ませてくれたのだ。
それもとてもスマートに。
ただただ恐縮するわたしに
「村上さんから女性には出させるなって言われてるんですよ」
と、サラッと言って搭乗口に向かって行った。
自分よりずっと歳下の男性からこんな大人の姿を見せられてファンにならない訳がない。
同時に、競輪だけではなくプライベートでも、兄貴のようなアドバイスをしている村上義弘さんにも感服した。
そんな彼が努力に努力を重ね、今や競輪界の大スターとなった。
わたしの密かな思い出だったが、今こうしてあの古性選手と一緒にお寿司を食べたんだよ! と自慢できる選手になったのは心から嬉しい。
今年のグランプリはこのコラムで取り上げた、なんとなんと4人も出場する。
もちろんみんなに活躍してほしいが、優勝するのはただひとり。
その勝負の行方が今から楽しみで仕方ない。
スピードチャンネル初代キャスターとして競輪デビュー。以来、競輪の魅力にどっぷりハマりウン十年…。全国各地の競輪場でキャスターとして活躍を続けている。 滑舌の良さとベテラン解説者にも全く物怖じしない鋭いツッコミが武器。「トリガミパトローラー」「メロンチャンス」など、独自のキャラクターで番組を盛り上げる。