
フレームを貸し借りする文化

フレームを組み替え中...。
手前は毎度お馴染みのぼくのホワイトフレーム、銀ラグ仕様。
選手生活10年強で20本弱はフレームを所有しましたが、自分で注文する際にはこの色しか作ったことがないんですよ。
ちなみに、こちらは練習用に完成車で競輪場に置いている自転車です。
練習用フレームから部品を取り外して、奥のブルーのフレームに取り付けている最中というわけですね。
さて、このブルーのフレームは、ある先輩からお借りしたものです。
誰か分かりますか?
って、まあ奈良競輪マニアの皆さんには簡単すぎましたね。
奈良県でブルーのフレームと言えば、青い稲妻、近畿の核弾頭こと三谷将太先輩(92期)のフレームです。
実は、競輪選手同士の「フレームの貸し借り」は、それなりにポピュラーな話なのです。
そんな事を言っている間に、自転車が組めました!
「自分の色」があるので、ぼくが自分で作ることはないであろうカラーリングですが、ブルーのフレームもカッコイイですよね。
話は逸れますが、競輪選手にはフレームを作る際、「毎回自分の色を貫く人」と「気分によって色を変える人」の2種類が存在します。
どっちがいい、悪いなんて話ではないのですが、それこそ三谷兄弟なんて典型的な固定カラーの方々ですよね(笑)。
そんなブルーのフレームを何故お借りしたかというと、次にぼくが作りたいフレームと似たような形のフレームをお持ちだったからです。
なんか言い回しが難しいですね...。
少し前にフレームを注文するくだりを記事に書いたのですが、その中にフレームの流行の話があります。
【過去回:自転車を注文しよう!】
この記事を書いた時に例に出したのは、ビッグフレームです。
自分のサイズよりも大きめにフレームを作る事で、反応は悪いけれどスピードに乗ると自転車が伸びる、という特徴を持つフレーム理論です。
今回お借りしたフレームは、「ハンガーが下がったフレーム」です。
ハンガー下がりとは、BB部分がホイールベースのラインからどれだけ下がっているか、という数字のことです。
自転車の知識がないと、最初から最後までなんのこっちゃ...という単語の羅列ですよね(笑)。
図で表すと
この白い矢印の部分!
赤い線がホイールベースという、前ホイールと後ろホイールの中心を結んだ線。
当然ながら、この線は地面と水平です。
そこから、クランク(足でクルクルするところ)の付け根、BBの中心がどれだけ下になっているか、という数値がハンガー下がりです。
この部分が下がっていると、踏んだ感触はかなり重くなりますが、全体的に重心が下がり、コーナーで流れる感じのフィーリングになるんですよ。
車で例えると、車高が下がり低重心になる事で馬力を上げても安定して走れる、という感じです。
先程、例に挙げたビッグフレーム理論は、重心が上がってでも強引にホイールベースを伸ばして直線最高速に振ったマシン...というイメージですよ。
うーん、これも車が好きじゃないとなんのこっちゃ...という例えですね(笑)。
まあなにせ、こういった細すぎる数ミリのスペックが変わるだけで、乗り味がビックリする程変化するのが競輪用自転車のフレームなんですよ。
競輪選手は、こういうミリ単位の試行錯誤を重ねて、フレームビルダーにオーダーするんです。
ただ、そんな数ミリの違いをいちいち自分で注文して作っていては、お金がいくらあっても足りません!(笑)
そんな事情で、次に作りたいフレームに似たような数値のフレームを持っている人がいたら、お願いして貸してもらう事があるんですよ、という話がしたかったんです。
本題にたどり着くまでが長かったですね(笑)。
やはり、GI戦線で活躍しておられる選手はフレームを作る量が比べ物になりません。
全国の強豪が集まるGI開催で最先端の流行を耳にすれば、とりあえず作る!ダメだったら戻す!という作業を繰り返しておられるので、フレームを余らせていらっしゃる方が多いんです。
その中で、自分とサイズが近い強い選手に「使っておられないハンガーが下がったフレームありませんか?」聞いてみて、あればラッキー!とばかりに試させてもらってから、良ければ自分で注文する、悪ければ返却するという訳です。
たまに、他人のフレームなのに、ほんっとうに自分の身体にフィットするフレームが現れたりします。
そういう時は、交渉次第で譲ってもらう…なんてやり取りも出てきますよ。
そんなこんながあって、他人のフレームに乗っている選手って結構多いんです。
自分のフレームは10年以上作っていない!なんて選手も、中にはいらっしゃいます。
自分では作らない!というスタンスの方は少数派ですが、奈良支部でも、自分で作ったものがしっくり来ずに他人のフレームに乗り続けている、という選手は2〜3割います。
案外多いですよね。
まあ皆さん色んな事情がありますが、貸し借りはもちろんフレームの譲り合い、というのは結構ポピュラーなんですよ。
ってな訳で話を戻してぼくがお借りしたフレーム。
実は、乗ってみた感じがしっくり来ず、このまま作るのはやめておこうかな…という手応えでした。
「なんじゃそりゃ」と思われるかもしれませんが、仮に自分でフレームを作って試していたとすれば、約30万円をドブに捨てる羽目になった訳ですから、とても有難い話です。
まあ、今回お借りしたのはハンガー下がりが72mmという、ほぼ下限まで下げた極端な仕様です。
まあ本番で乗りこなせるほど練習で使えていないというのは正直なところですが、明らかに「無理そう」という手応えはあったんですよね。
ただ、今回お借りした事で傾向はハッキリと理解したので、自分の脚質的にもここまで極端な仕様はやめて、もう少し数値を抑えたものを作ろうかな、という結論に至ったという訳ですよ。
そうやって「この数値がいい!」と言えるまで研究して、やっとの思いでフレームを製作しても「あれ、なんか違うな…」となってしまう事もあります。
例えば、季節が変わると気温や湿度の違いでパイプ溶接時の冷却時間が変わるため、フレームの硬さが変わる…なんて話もあるんです。
いやぁ、ほんとフレームって奥が深い!
こんな感じで、僕のような下位選手でも、少しでも進む自転車を手に入れるべく日々試行錯誤しています。
そんな事よりまず練習しろ!と言われると耳が痛いですが、まあ先程リンクを貼ったフレーム製作の記事の通り、フレーム注文って練習時間を割いてまで時間がかかるものではないですからね(笑)。
そんな中で、自分で作ったフレームであろうが、他人のフレームであろうが、しっくり来て納得した個体をレース本番で使用しているって訳です。
競輪選手にとって自転車は”相棒”であり”身体の一部”ですから。
皆様も機会があれば、競輪選手の「相棒」にもフォーカスを当てて競輪を楽しんでみてくださいね!
ではまた次回!
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1995年3月30日生まれ。滋賀県出身。 日本競輪選手会 奈良支部所属107期の競輪選手。現在はA級2班。同期には新山響平、山岸佳太、簗田一輝など。 ……以上はすべて仮初めの姿であり、本業は某アイドルのプロデューサーであるともっぱらの噂。 ドール、カメラ、声優など、さまざまな「沼」に足を踏み入れている。